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2022年、自分にとって時計的にはどんな年だっただろう?

個人的なこと(まだ続いているが)もあり、あまりこれと言って所謂「時計界」に注意を払ってはいなかったと思う。本業の海外出張も相変わらずゼロだったし。とは言え、ccfanさんが書いているような新たな機構たちは、それはそれとして、とても興味を引くものがあった。「趣味としての時計」という面では、いくつかの大きなブランドとは距離がより離れ、どちらかというと、独立系ブランドのいくつかと近づいたように思う。それは言うまでもなく、「近づきやすさ」があったからだ。

「近づきやすい = 安くて質が低い」というイメージを持っている人がいるとすれば、それは大きな間違いだ。もちろん、独立系ブランドの中でも「近づきづらい」「人を寄せ付けない」人たちもいるということは経験上も事実だ。しかし、自分の長い経験では、「いい時計」を作っている人達は「近づきやすい」人たちがほとんどだ。ここでいう「いい時計」の定義も人それぞれなので、安易に使う言葉ではないと思うが、筆者の中では「(自分の好みという範疇で、払ったお金に対する)納得感のある作品出来栄え・パフォーマンス」としておこう。

「近づきやすさ」がなぜ、ここ数年自分にとって大事になってきたかというと、要するに「ついていけない」ブランドが増えてきたからだ(時間的にも方向的にも納得感についても)。さらに、ここ数年、独立系ブランドで「いい時計」を出すところがどんどん出てきて(あるいは出していることを自分が発見して)、自分の知らない「楽しき時計の世界」を見つけてしまったことも理由の1つだ。自分的には、「時計趣味2.0」かな・・・。自分にとって愛でるべきブランドや時計はたくさんある、ということだ。何も限られた特定の人気ブランドに固執する必要はない。広い視野でこの趣味も見つめ直すといろいろと見えてくるだろう。ただ、時計ブランドも趣味人たちの間にも「格差」というか「二極分化」が進んでいることは日に日に明らかになってきており、今後の双方の戦略に非常に興味がある。もちろん、どちらかが良い悪いと言うつもりはない。いろいろな人がいていいのだ。それで時計業界やこの趣味も栄えるわけだし。ただ、本当に時計が好きで時計を買っているのかどうか、というのは大きな違いではある。もちろん、それでさえも良い悪いと決めつける対象ではない。

私はジャーナリストではなく、物書きでもなく、ただの時計趣味人である、ということをくれぐれもお忘れなく。誰を批判するつもりもなく、自分が「いい!」と思うものを紹介していきたいと思う。

さて、御託はこれくらいにして、2021年(あるいはそのちょっと前から)の筆者の「発見」について、いくつかのブランド・時計師を例に徒然と書いていこうと思う。ただし、人によっては限りなくつまらないと思うだろう、とあらかじめお断りしておく。本当は価値観の違いも、趣味の楽しみの1つではあるはずなのだが。



これも私の定義では「いいブランド」であり「いい時計」を作っている、と思う。もちろん、最近の作品はあっという間に売り切れてしまうということで不満をお持ちの方もいるだろうとは思う。しかし、彼らのいいところは、そういった不満にも耳を貸して、売り方をいろいろ工夫してきているところである。今年、いくつの新作を出すかわからないが、MINGが気になっている人達が手に入れることが出来るよう祈るばかりである。



彼らのモデルは入れ替わりが早い。あまりに多くの新しいアイデアがあるので、いつまでも同じモデルを作り続けられない、ということらしい。よって「ディスコン」と言ったらばっさり「ディスコン」するのだ。中身を変えずに外側だけ変えて復活させる、あるいは新モデルとして発表するということは今のところない。そこが潔くていい。同じことはGronefeldにも言える。

それから何よりも、コストパフォーマンスは高い。17.09などは、2000スイスフランを切る値段設定なのである。いわゆる「インハウス」のムーブメントを使っているモデルはないが、上級モデルには外注の専用ムーブが使われているものもある。「インハウスムーブメント」の経済的価値は、その開発コストを吸収できる以上の生産規模・価格支配力を持って意味をなすものである(もちろんそんなことはこの「趣味」に「工芸品的価値」を求める場合には全く関係ないことであり、この趣味の別の次元の話)。価格を考えれば、ユニークなデザインも含めたトータルの時計の出来に文句を言う人はいないだろう。創業者デザイナーMing Thein氏も、Help Deskの人たちも、みんな非常に親切だし、純粋に時計好きというスタッフばかりで、自分たちが欲しい時計を作っていることがよくわかるブランドだ。